掻巻 (かいまき)

nobita7202013-01-27

手縫いの掻巻です。→



掻巻って何? 



歳時記では、三冬の夜着(よぎ)の
季語となっている、
褞(どてら)・掻巻(かいまき)
丹前(たんぜん)の一つです。



大澤水牛さんの 
「水牛歳時記」 によると、




掻巻は小夜着(こよぎ)とも呼ばれていたが、
丈を普通の着物の一・二、三倍にとり、幅も広くし、
着物のように袖と襟をつけ、表地と裏地の間に綿を入れる。
これを被って寝ると肩口がすっぽり包まれるから、
首筋から冷たい空気が入るのを防ぐことができる。
昔の日本家屋はすきま風がさかんに入り込んだから、
冬場は特に夜着(掻巻)が重宝がられた。


真冬になると掻巻の上から掛布団をかけた。
敷布団と合わせて三枚だから三つ組みと呼び、
これが江戸時代以降、裕福な家庭の冬期の夜具三点セットとなった。
昭和四十年代までは田舎の結婚式で
花嫁の輿入れ調度品を麗々しく飾る風習が残っていたが、
箪笥や家具などと共に三つ組み布団があった。
敷布団・掛布団の上に艶やかな掻巻が積まれている。


嫁入り道具の掻巻は綿がたくさん入ってパンパンに膨らんででいるが、
普通の掻巻はそれほど綿を入れず、起きてからも羽織れるくらいである。
寒がりのご隠居などは昼間もこれを羽織って炬燵に入ったり、
火鉢を抱え込んだりしていた。






と言う事である。
寒い地方の民宿などでは、今でも使われていて哀愁を感じる事がある。
もっとも、若い人や温暖な地方で育った人には使い方が分からないで、
羽織るだけの物と思い、長くて重くて使い難いと思われてしまうが…。




右上画像の掻巻は、ばっぱちゃんの手縫いなのです。




ばっぱちゃんは、のび太の家の向かいに住んでいた赤の他人のお婆ちゃん。
しかしのび太は、小学校を卒業する頃まで実の祖母だと思っていました。




ばっぱちゃんは長女を出産して間もなく足に関節リュウマチを発症し、
松葉杖生活となり、のび太の母が何くれとなく生活の面倒を見ていました。




のび太が物心ついた頃には既に松葉杖生活だったばっぱちゃんですが、
ばっぱちゃんが通っていた小高い山の上の病院へ行く時には、
母がばっぱちゃんを背負い、のび太が松葉杖を抱えて階段を登りました。
(余談ですが、病院坂の…とか言う小説があるように、
 高台にある病院が多いですが、病人に優しくないですよね。)




週に一度、ばっぱを背負って階段を上る母を見た人は娘だと思い、
松葉杖を抱えて登るのび太を孫だと思っている人がほとんど。




「あらぁ〜、お孫さん偉いわねぇ〜。」 と、何度褒められた事か…。
母もばっぱちゃんも、親族に間違われる事を否定しませんでした。




のび太が小学生になると、学校から帰ってばっぱちゃんの家に行き、
シップの貼り替えを手伝ったり、枕元の飲み水を交換したりしていました。
思えば今の介護の仕事を、この時期から始めていたんですね。(笑)




そんなばっぱちゃんは足の関節リュウマチは酷かったものの、
手の方は進行が遅く、若い頃のばっぱちゃんは手先が器用で和裁が得意。
のび太の綿入れ半纏を数枚縫ってくれました。




ばっぱちゃんは1980年に他界しましたが、その頃のび太アメリカに居た。
一緒に米国に居た姉には報告があったものの、のび太には内緒にされた。
母が姉に言ったそうです。
「ばっぱの死を知ったら絶対に帰国すると言い出すから内緒に…。」




帰国後にばっぱちゃんの他界を知らされて墓参りに行きました。
線香を手向けて声を殺して肩で泣くのび太の姿を、
母とばっぱちゃんの旦那であるじっちちゃんが見守っていた。




家に帰ると、ばっぱちゃんの長女から電話があり、
墓参りをした事に対するお礼と、じっちが泣いていたと言う話をした。
「通夜・葬儀・法事と色んな人が来て泣いてくれたが、
 心の底から悲しんで泣いてくれたのは、のび太だけだった。」って。




今年の正月に仙台へ帰省した所、シクラメンの大きな鉢植えがあり、
話を聞けば、ばっぱちゃんの一人娘が毎年贈ってくれるとの事。



「ばっぱが世話になったと、今でも感謝しているんだろうね。」 母が言う。




お礼の電話をすると、大声で 「そうだわ、のび太が居たわ!」 って。




荷物の整理をしていたら、ばっぱちゃんが若い頃に縫った掻巻が出て来て、
誰かに使ってもらおうと思ったものの、ばっぱちゃんを知りもしない旦那や、
娘婿に使わせるのも忍びなく、ましてや赤の他人などもってのほか。
血縁じゃないと言っても、ばっぱちゃんが一番に使って貰いたいと思うのは、
のび太しかいないわ…と言う事で、早速贈られて来ました。



掻巻は綿入れが難しいそうで、綿の掻巻をネットで検索しても、
数万円の値段で売られていました。
ばっぱちゃんの掻巻は一針一針が丁寧な仕事がしてあり、
掻巻を抱えて思わず泣いてしまいました。




マンション住まいでは首筋が冷えるほどの隙間風が入る由も無く、
夜着として使う事は無いけれど、日常で掻巻を羽織り、
ばっぱちゃんを思いだす事にします。